退職を引き止められたときの断り方|パターン別の返し方と、断れないときの線引き
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やっとの思いで「辞めます」と伝えたのに、話が終わらない。「もう一度考え直してほしい」「後任が決まるまでは」「今の時期は困る」——そう言われて持ち帰ってしまい、次に何と言えばいいか分からないまま数日が過ぎている。この記事を開いた方の多くは、この状態だと思います。
先に一つだけ言っておくと、引き止めを断るのに、新しい理由や強い言葉はいりません。必要なのは、同じことを穏やかに繰り返す型と、相手の切り口ごとの短い返し方です。
この記事は、法律の条文と公的資料、弁護士・社会保険労務士による解説をもとに整理した調査記事です。読み終えたときに、次の面談で言う一文が決まるところまで進めます。
結論:先に押さえる3つ
- 断り方の基本形は「感謝 → 意思は変わらない → 日付の話に戻す」の3ステップ。理由を足すほど交渉の材料が増えるので、説明は短いほうが通ります
- その場で「考えます」と言わない。持ち帰りは相手にとって成功で、次の面談がまた設定されます
- 引き止めは「お願い」の範囲なら自由だが、辞めさせない方向の圧力には法律上の限界がある。損害賠償や懲戒をちらつかせる段階まで来たら、断り方の問題ではなく相談の問題です
1. 引き止められるのは、あなたが特別だからではない
まず知っておくと気が楽になるのが、引き止めはほぼ全員に起きるということです。
エン・ジャパンが2017年に公表した企業向けの調査では、6割超の企業が退職希望者に対して引き止め(カウンターオファー)を行った経験があると回答しています(エン株式会社)。民間の調査で、年も経っていますが、「引き止めは例外ではなく通常運転」という感覚を持つには十分です。
会社側には会社側の事情があります。採用にはコストがかかり、育てるには時間がかかり、欠員は残った人の負荷になります。だから上司は引き止めます。それはあなたの決断が間違っているという意味ではなく、会社の都合が発生しているというだけの話です。
一方で、退職まわりのトラブルが多いのも事実です。厚生労働省が毎年公表している個別労働紛争解決制度の施行状況では、民事上の個別労働紛争の相談内容として「自己都合退職」が最も多い項目になっています(令和6年度で2年連続)(令和6年度の個別労働紛争解決制度の施行状況 – 石川労働局)。話がこじれているのは、あなたの伝え方が下手だからではありません。
2. 断り方の基本形——1つの型を繰り返すだけ
引き止めの場面でうまくいく返し方は、だいたい同じ形をしています。
- 受け止める:「そう言っていただけるのはありがたいです」
- 意思は変わらないと言い切る:「ただ、退職の意思は変わりません」
- 日付の話に戻す:「◯月◯日の退職で、引き継ぎの進め方を相談させてください」
ポイントは3つ目です。議論の土俵を「辞めるかどうか」から「どう辞めるか」に移すと、相手は引き止めを続けにくくなります。逆に、辞める理由の説明を続けているかぎり、話は「辞めるかどうか」の土俵に留まり続けます。
言い回しは変えて構いませんが、中身は毎回同じにしてください。 前回より弱い言い方をすると、「揺れている」と受け取られます。
「お気持ちはありがたいです。ただ、家族とも相談して決めたことなので、変わりません。◯月◯日の退職で進めさせてください。」
理由は短く、変えない
引き止めに強いのは、会社が解決できない理由です。待遇・人間関係・業務量といった「改善できる不満」を理由にすると、そのまま改善提案が返ってきて、断りにくくなります。
- 良い例:「一身上の都合です」「家庭の事情があります」「別の分野で専門性を積みたいと考えています」
- 引き止めを誘う例:「給与が上がらないので」「◯◯さんとうまくいかないので」「残業が多すぎるので」
転職先が決まっている場合は、入社日が確定していることだけを伝えれば十分です。社名を言う必要はありませんし、聞かれても答えない選択ができます。
退職理由の作り方そのものは退職の切り出し方とタイミングで詳しく整理しています。
3. パターン別・そのまま使える返し方
A.「給与を上げる」「役職をつける」「異動でもいい」
条件の提示です。その場で受けるか断るかを決めないことが最優先で、かつ「考えます」も避けたい返答です。
「評価していただいてありがとうございます。ただ、待遇の問題で決めたわけではないので、条件が変わっても結論は同じです。」
判断に迷いがある場合は「5. 条件を提示されたとき」を読んでから答えを決めてください。迷っていること自体は問題ありませんが、面談の場で決める必要はありません。
B.「君がいないと回らない」「このタイミングで裏切るのか」
情に訴える形です。責任を感じやすい人ほど効きますが、人員配置は会社の責任範囲です。
「ご迷惑をおかけするのは承知しています。だからこそ、残りの期間で引き継ぎを一番きれいな形にしたいと思っています。」
謝りすぎないことも大切です。謝罪を重ねると「まだ説得の余地がある」と受け取られます。
C.「後任が決まるまで待ってほしい」
もっとも多く、そして期限がないのが厄介なパターンです。後任が決まる保証はどこにもありません。
「後任の方への引き継ぎは、◯月◯日までにできる形をすべて用意します。ただ、退職日自体は◯月◯日で変わりません。」
期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)であれば、退職を申し入れてから2週間の経過で雇用は終了する、というのが民法第627条第1項の建てつけです(民法 – e-Gov法令検索)。後任の有無は、この条件に含まれていません。 就業規則の予告期間との関係は退職は何ヶ月前に言えばいいかで整理しています。
D.「繁忙期が終わるまで」「今期いっぱいは認められない」
Cと同じ構造ですが、期限が示されている分だけ譲歩しやすく見えます。ここで安易に延ばすと、次の繁忙期が来ます。
「繁忙期に重なるのは申し訳ないです。そのうえで、◯月◯日を最終出社日として引き継ぎ計画を作りました。ご確認いただけますか。」
延ばすかどうかを自分で決めてから面談に臨むのが大事です。1か月なら延ばせる、という結論も十分ありえます。その場合も「会社に押し切られて延ばした」ではなく、「自分で決めて延ばした」形にしておくと、その後の話が楽になります。
E.「損害賠償を請求する」「懲戒解雇にする」
ここからは、断り方ではなく記録と相談の段階です。
労働基準法は、違約金や損害賠償額をあらかじめ決めておく契約を禁じています(第16条・賠償予定の禁止)。また、労働者の意思に反して労働を強制することも禁じられています(第5条・強制労働の禁止)(労働基準法 – e-Gov法令検索)。弁護士による解説でも、「辞めたら業務が回らなくなるから」という理由だけで損害賠償が認められるものではなく、それをちらつかせて退職を思いとどまらせようとする行為自体が問題になりうる、という整理が共通しています。
その場で言い返す必要はありません。やることは2つです。
- 言われた日時・相手・発言内容をその日のうちにメモに残す(メールやチャットで来ているなら保存する)
- 次項の公的な窓口に相談する
「その点は私には判断できませんので、労働局の相談窓口で確認したうえで、改めてお返事します。」
この一言で会話を止めて構いません。個別の事情によって結論は変わりますので、脅し文句に一人で結論を出さないでください。
F.「退職届は受け取らない」と突き返された
書類を受け取らない、机に戻される、といったケースです。押さえるべきは、受理や承認は法律が定める退職の条件として書かれていないという点です。
対処は、届いたことを記録に残す形に切り替えることです。
- メールで送って送信済みを残す
- 郵送なら特定記録郵便、確実を期すなら内容証明郵便を使う
書類の書き方と、受け取ってもらえないときの詳しい手順は退職届と退職願の違いと書き方にまとめています。
4. やってはいけない4つ
- 「考えます」と持ち帰る。相手にとっては引き止め成功で、次の面談が設定されます。「結論は変わりません。ただ、引き継ぎの相談はしたいです」に置き換えてください
- 不満を理由として説明する。改善提案が返ってきて、断る理由を自分で減らすことになります
- 感情的に言い返す。在職期間が残っている以上、関係を壊すコストは自分が払います
- 口約束だけで済ませる。合意した退職日は、書面かメールで残してください。退職の切り出し方とタイミングのチェックリストも使えます
5. 条件を提示されたとき——受けるかどうかの判断基準
引き止めの条件を受け入れて残るのが悪い選択とは限りません。待遇だけが理由だったなら、それが解決するのは合理的です。判断するときは、次の3つを自分に確認してください。
- 辞めたい理由は、提示された条件で本当に解決するか。給与が上がっても仕事の中身や人間関係が変わらないなら、理由は残ったままです
- その条件は、いつ・どういう形で実行されるか。「次の評価で検討する」は約束ではありません。時期と内容が具体的でないなら、口頭の期待にすぎません
- 辞めると言った事実は、この先ずっと残る。昇進や重要案件の判断に影響しうる点は、率直に見ておいたほうがフェアです
判断がつかない大きな理由が「次に行ったとき、自分の条件が今よりよくなるのか分からない」であることは少なくありません。今の会社の提示が妥当なのかどうかは、外の相場を知らないと比べようがないからです。
辞めた後の見通しを先に持っておきたいなら、転職エージェントに無料登録して求人の相場だけ見ておく方法があります(20代の第二新卒・既卒: UZUZ第二新卒
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比べる材料がないまま面談に臨むと、その場の雰囲気で決めることになります。先に相場を見てから答える、という順番にするだけでも、判断の質は変わります。
6. 引き止めが度を越しているとき
「お願い」の範囲を超えて、辞めさせない方向の圧力が続く場合があります。長時間の説得を繰り返す、毎日呼び出す、有給の消化を認めない、離職票を出さないとほのめかす、といった状態です。
このときは断り方を工夫する段階ではなく、第三者を入れる段階です。いずれも無料で、相談したこと自体が会社に伝わるわけではありません。
- 総合労働相談コーナー:全国の労働局・労働基準監督署などに設置され、労働問題をワンストップで相談できます(厚生労働省)
- 労働条件相談ほっとライン:0120-811-610。平日17:00〜22:00、土日祝9:00〜21:00(確かめよう労働条件 – 厚生労働省)
- こころの耳:働く人のメンタルヘルス相談。電話・SNS・メール、無料・匿名(厚生労働省)
体調的に出社が難しい、話し合いそのものが成立しない、という場合には退職代行という選択肢もあります。ただし運営主体(民間企業・労働組合・弁護士)によってできる範囲が違うため、検討する前に仕事を辞めたいけど言えないの該当箇所を確認してください。まずは上位者・人事への直接の申し出と、書面での意思表示で解決しないかを見てからで間に合います。
有給と引き継ぎは、引き止めと切り離す
引き止めの場面では、有給消化や引き継ぎが交渉材料として持ち出されることがあります。ここは分けて考えてください。
年次有給休暇について、会社には繁忙期などに取得日をずらしてもらう権利(時季変更権)がありますが、退職日より後にずらすことはできない、というのが解説の共通した整理です(労働基準法第39条/労働基準法 – e-Gov法令検索)。残日数と最終出社日は、退職日を決めるときに一緒に組み立てるのが現実的です。
引き継ぎについては、法律で期間や分量が決まっているわけではありません。ただ、引き継ぎ計画を先に文書で出しておくと、引き止めの言い分が一つ減ります。 断るための材料としても有効です。
今日できる一歩
面談を設定し直す必要はありません。次のうち1つだけ選んでください。
- 次に言う一文を決めて、声に出して1回読む(例:「決めたことなので変わりません。◯月◯日の退職で引き継ぎの相談をさせてください」)
- 引き継ぎ計画をメモ帳に3行で書く(担当業務/引き継ぎ先/完了予定日)
- これまでの引き止めのやり取りを、日付つきで箇条書きにする
- 損害賠償や懲戒の話が出ているなら、公的窓口の番号を携帯に登録する
引き止めは、こちらが説得に勝つ場ではありません。同じ結論を、穏やかに、あと数回繰り返せばいいだけです。
参考・出典
- 民法 – e-Gov法令検索(第627条:期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
- 労働基準法 – e-Gov法令検索(第5条:強制労働の禁止/第16条:賠償予定の禁止/第39条:年次有給休暇)
- 令和6年度の個別労働紛争解決制度の施行状況 – 石川労働局(厚生労働省)(民事上の個別労働紛争の相談内容で「自己都合退職」が最多)
- 「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します – 山口労働局(厚生労働省)
- 労働相談Q&A 退職の自由 – 日本労働組合総連合会(連合)
- 個別労働紛争解決制度の施行状況(報道発表) – 厚生労働省(総合労働相談コーナーの案内)
- 相談機関のご紹介(労働条件相談ほっとライン) – 確かめよう労働条件・厚生労働省
- こころの耳の相談窓口 – 厚生労働省
- 「カウンターオファー」実態調査 – エン株式会社(2017年・民間調査)
- 退職を引き止めるのは違法?違法になるパターンと止められたときの対処法 – キャリアアップステージ(弁護士監修メディア)
- 退職できない・させてくれない、は違法!引き止めの対処法 – ベリーベスト法律事務所
- 退職の引き止めの断り方を社労士が例文付きで実務解説 – もりおか社会保険労務士事務所
※本記事は公的資料と専門家による解説をもとに整理した情報記事であり、法律の専門的助言ではありません。損害賠償や懲戒に関する話が出ている場合など、個別の判断は公的窓口・専門家にご確認ください。